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アートバーゼル、新世紀の幕開け

アートバーゼル、新世紀の幕開け

2011/06/29

レポーター:ロリエー上條和美

スイスのバーゼルで毎年開催される世界最大規模の現代美術作品のアートフェア「アート・バーゼル」が、6月14日から18日まで開催されました。第42回となる今年は、35カ国から選ばれた300以上のギャラリーが20世紀と21世紀を代表する2500ものアーティストや団体の作品を展示しました。作品の総額は17億5000万ドル(約1400億円)、また動員者数は推計6万人という規模でした。

香港アートフェアを買収し、マイアミアートフェアも傘下に収めているアートバーゼルは、まさにアートビジネスの世界的中心地であり、その購買額は天文的数字に達しています。
開催初日前日のプレオープニングでは、世界中から集まった画廊関係者とコレクター達が11時の開門とともに怒濤のように目当てのブースに押し寄せて、めぼしい作品を全て買い占めました。また初日は、どのブースでも普段街中では見かけないような身なりの良いカップルたちが残ったお宝を探す姿が見受けられました。電卓片手のギャラリストと彼らが血眼で商談を繰り広げ、「2千万円!」「6千万円!」と飛び交う数字を見聞きし、この一般社会の失業率や不況はどこに行ってしまったのだろうと、とても居心地の悪い思いに駆られました。

アートバーゼル
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1969年当時、アート作品といえば絵画、彫刻と決まっていた時代に、バイエラー財団のアーネスト、バイエラーギャラリスト達が賛同して始めたアートバーゼルも今年で第42回目を迎え、新しいサイクルに入った兆しが見られます。1980年代からのアート投資にアートがその市場価格を記録的に跳ね上げてからというもの、時々の不況にも影響を受けないまま、アートバーゼルの作品群は徐々に写真作品から始まり、ビデオ作品、その移動や保管にもままならないような巨大なインスタレーションへと移行していきました。
今回のフェアでは、50年前の映画プロジェクター投影による作品は若干残っていたものの、ビデオ作品はほぼ姿を消し、写真作品はめっきり数が減り、インスタレーションは数えるほどしかありませんでした。

最新アート動向は、いかにも古風な表現方法、シンプルな花や人物や風景のペイント、ドローイング、コラージュといった平面作品のように見受けられます。まるで、90年代から急激に飛躍してきた写真やビデオ作品の台頭に処罰を与えるかのようです。しかし、若手作家の古風な作風には、新世代の思考である皮肉やパロディ、イミテーションといった今を刺激するエッセンスがちりばめられています。

アートバーゼル
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一般人にとってアートバーゼルの素晴らしい側面は、世界最高レベルのコレクションの実物を、5日間限定の美術館のように見て回れることです。
コレクションは、1900年から第二次世界大戦までのアート繁栄期の作品群や、戦後から70年代までの新転換期の作品群である抽象印象派やアメリカで生まれたポップアートの作群等、今日にいたる最新の現代作品までと多様です。
新しい出展国傾向としては、なんと言っても中国のギャラリーがその数と作品の質において目を見張るものがあったこと、アフリカや中東のギャラリーが増えていたという点でしょうか。
アートを通して世界の勢力交代の縮図が見られるというのも、アートバーゼルの楽しみ方だと思います。

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Profile

ROLLIER-上條 和美

ROLLIER-上條和美/マルチデザイナー

1985年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。青山のデザイン制作会社勤務を経て、1988年フリーでL.A.とNYCに移住し現代アート市場をリサーチ。1990年スイスに移住し、スイス メーカーにてコーポレートデザインをはじめ、カタログ、広告、プロダクト、展示ブースなど各種デザイン業務を担当。一部フリーランスでも活動中。