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すべてに見られる美:日本のアートとデザイン

fromNY 海老原嘉子のニューヨーク・SoHo通信
すべてに見られる美:日本のアートとデザイン

Beauty in All Things: Japanese art and Design

2012/04/18

レポーター:海老原嘉子

2011年11月22日から2012年6月3日にかけて、MAD(Museum of Art and Design)で“Beauty in All Things: Japanese art and Design”展が行われています。本展は、MADの若手キューレーターによる“日本の美意識は、しばしば西洋の感覚と異なる視点や手法で、最も洗練されたオブジェクトを生み出している”というコンセプトで、パーマネントコレクションより95 点を選出し展示するものです。

MADキュレーターが考える日本のわびさび

この展覧会では、より革新的な日本の美の理念を紹介するべく、現代日本の優れたアーティストやデザイナー作品が選ばれています。いくつかの歴史的、伝統的な技法を用いつつ材料の新たな方向性を見い出す作品や、最新のテクノロジーを取り入れながらも伝統的な素材を使った作品なども選ばれています。

日本の美の概念を表わす言葉で、海外で度々使われるのが「わびさび」です。今回の展覧会では、わび=自然、さび=幽玄、雅、簡素、脱俗(奇抜)をテーマに作品を選んだそうです。

入口のタイトルの横に展示されている小池頌子のセラミック作品は、その不規則な釉薬のパターンとダイナミックなフォルムが、田中秀穂の作品は基礎となる構造の美しさを引き出すために中央を燃やしている点が、わびさびにつながりました。

また、新鮮な創造性の感覚を示唆しているnendoのキャベッジ・チェアーや、中島晴美の青いドットのパターンで覆われた陽気な陶器の彫刻は、ポップアートやアニメの関心につながるユーモラスな作品として評価されています。

これだけの量の日本の現代工芸作品が、ニューヨークで長期間展示される機会は少なく、大変意義のある展覧会だと思います。併せて、なぜ多くの作品がアメリカの美術館でパーマネント・コレクションされているかを、日本の皆様にお知らせしたいと思います。
ちょうど、本展のお手伝いをしていた時に東日本大震災が起こり、何人かの作家の窯が壊れてしまいました。余震で今後も作品が壊れてしまう可能性があるので、ニューヨークで保管してほしいとの依頼を受け、【デザインで救おうDesign Saves Lives】東日本災害支援プロジェクトを立ち上げました。オークションを通して、日本の素晴らしい作品をニューヨークでコレクションしてもらう企画です。2011年12月7日に行われ、被災地の作家だけでなく日本各地の作家さんからも作品が送られ、大きなイベントになりました。
http://www.designsaveslives.org/

MAD Museum外景
MAD Museum外景
展示風景(撮影:小池周湖)
展示風景(撮影:小池周湖)
左:小池頌子 右:田中秀穂
左:小池頌子 右:田中秀穂

ミュージアムのコレクション事情

私は今まで、様々なミュージアムのパーマネント・コレクションのお手伝いをして、300点以上の作品(ポスターから工業作品、工芸品、家具迄)を納めてきました。各々のミュージアムでは、テーマに沿って歴史的観点から作品集めをしていますので、日本で有名な芸術団体の大先生であっても、または都道府県の代表作品であっても選ばれる理由には成らず、あくまでもミュージアムにあったテーマでパーマネント・コレクション委員が作品を選び、決めていきます。予算が潤沢なミュージアムの場合は幅広く好きな作品を集めているようですが、メトロポリタン・ミュージアムやMoMAのようにアートがメインのところは、まずアートに予算が行き、デザイン、工芸の予算まで取れないことが多いようです。

MAD Museumの場合、キューレーターの意見が尊重されますが、実際に決める時には、パーマネント・コレクション委員(キューレーターを含む20名前後で、中の2/3は外からの著名コレクターが占める)の力が強く、ミュージアムに予算がない場合、これらの人達がミュージアムに代わって買い上げ、そのままミュージアムに寄付をします。作家が寄付したいと言って提供した作品でも、委員の賛同を受けることが出来ずに、コレクションに入らない場合が多々あります。
各ミュージアムで展示されているパーマネント・コレクション作品を見る場合、ラベルにかかれている作家名はもちろんですが、提供者も併せて見てみるとおもしろいです。前述のように寄贈もしくは貸出、またコレクターが亡くなったり、作品管理ができなくなった際には、すべてのコレクションをミュージアムに寄付する場合もあります。オークション・ハウスにまとめて売出されるのも同じ理由です。

タペストリー:山口英夫(撮影:小池周湖)
タペストリー:山口英夫(撮影:小池周湖)
展示風景 左手前:「Tea Ceremony Chair」高田浩樹(撮影:小池周湖)
展示風景 左手前:「Tea Ceremony Chair」高田浩樹(撮影:小池周湖)
展示風景(撮影:小池周湖)
展示風景(撮影:小池周湖)

そう言う意味では、本当に限られた日本の作品しか、海外のコレクターの目に触れるチャンスがないことを、大変残念に思っています。ただこの展覧会をみても分かる様に、日本の何に興味を見いだし、その時代の何を残そうとしているか。若手、無名を問わず、その時代のアートとして認め、外国の作品でも保存して行こうとするミュージアムの姿勢には頭がさがります。

日本では未だに若手の出るチャンスが少なく、作品本来の価値で判断されておらず、価格やブランドで価値を決めている人達が多いのではないでしょうか。美術業界が個々で意見が言えて、批評家になれるような状況にならないと、作家たちが世界に羽ばたけないのではと危惧します。すばらしい日本の工芸が、日本の助成金や一部の特権階級で持っているようでは先が思いやられると思いました。

※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子が撮影