レポート イベント、アートフェス、見本市、新店舗など、編集部目線でレポート
Turner Contemporary
風景画家J.M.W. Turner ゆかりの地に建てられた、海辺のギャラリー
2012/04/25
レポーター:岸本江梨
ロンドンから電車で約1時間半、イギリス南東部ケント州にある港町Margateに2011年にオープンした「ターナー・コンテンポラリー」があります。「ターナー・コンテンポラリー」は、イギリスを代表する風景画家であるJ.M.W.Turnerがかつて住んでいたゆかりの深いこの地に建てられました。
アーティストの街としての復活を目指して
「ターナー・コンテンポラリー」の建設には、地域の活性化を図りたいという企画者の思いがありました。サネット地域自治区の代表を務めるリチャード・ニコルソン氏は「このギャラリー建築はこの地域にとって最も素晴らしい機会です。アーティストの街としてこの街を復活させる計画の起爆剤となるでしょう。また、観光地として、居住地や商業地としても全く新しいフォーカスがマーゲートに当てられるでしょう。」と述べています。
Margate駅から海辺沿いを歩いていくと、岬の手前に真っ白な外観のターナーコンテンポラリーが見えてきます。建築設計はDavid Chipperfield Architects によるもので、片流れ屋根に乳白色のガラス、T型ステンレスが使用されており、その外観は空・海からの光を集め、まるで光の壁のように輝き、シンプルで硬質的な美しいフォルムを際立たせています。
Grand floorのエントランスロビーに入ると、唯一の常設展示物でありネオンサインアーティストMichael Craig-Martin の作品「Turning Pages」が目に飛び込んできます。そのすぐ奥が吹き抜けとなっており、一面の大きな窓からはターナーも眺めたであろうMargate の海の景色を一望できます。多くの人がそこに立ち止まって海を眺め、彼の描いた作品とリンクさせていたに違いありません。
各ギャラリースペースには片側上部の横長窓を通して光が差し込み、壁に展示された作品たちがその柔らかい光に包まれていました。決してその光が作品に直接当たるようなことはなく、光と影が精密に計算され、自然光を上手く取り入れた造りとなっていました。
私が訪れた日は、1FのLeaning studioでは色紙やボタン、糸などを使って本の製作のイベントが行われていました。子供から大人まで多くの人が参加しており、このように積極的にこのLeaning studio中心にスペースを開放することで、地域の人々や観光客とアートとの触れ合う機会がもたれていました。
展示室は1Fの3部屋のみ、Grand floorにはカフェ、案内カウンター、ショップと決して大きいギャラリーではないですが、これがこの小さな港町に合った大きさなのかもしれないと思いました。
このMargateの町は海沿いにあるため、夏は海水浴客で比較的賑わうことはあっても、冬の時期に訪れる観光客は今まで多くはなかったでしょう。しかし、このギャラリーがオープンして約1年が経とうとする今、私が訪れた冬の週末もギャラリーは朝から多くの人で賑わっていました。また、町を歩くと小さなギャラリーやアンティークショップを多く見かけ、リチャード・ニコルソン氏が述べていたようにアーティストの街としても復活の日差しを感じる気がします。また、立ち寄った服屋では、「ギャラリーができる前と後では、あのギャラリー目的で訪れる人達が増え、この町は確実に変わった」と店のオーナーが話してくれました。
今後、このギャラリーがイギリスの新しい名所の一つとしてさらに成長し、多くの人にMargateの町を訪れてほしいと思います。
Profile
岸本江梨/インテリアデザイナー
1984年生まれ。父親の仕事の関係で幼少期の数年をタイで過ごす。
Wスクールにて早稲田大学芸術学校で建築を、専門学校ではインテリアデザインを学び、また学生時代には広告撮影やファッションスタイリストのアシスタントの仕事も務める。大手設計会社での勤務を経たのち、2009年に渡英。ロンドンのデザイン設計会社勤務を経て、現在フリーランスデザイナーとして活動中。