レポート イベント、アートフェス、見本市、新店舗など、編集部目線でレポート

ヨーロッパ初の大規模な魯山人展 「魯山人の美―日本料理の天才」

ヨーロッパ初の大規模な魯山人展
「魯山人の美―日本料理の天才」

魯山人の器を使った料理体験の映像インスタレーションで伝える
日本の美意識

2013/10/23

レポーター:南木隆助
「魯山人展」設計担当

日本の文化庁主催により、2013年7月3日から9月9日まで、パリの国立ギメ東洋美術館で、日本を代表する芸術家、美食家である北大路魯山人(きたおおじ ろさんじん)の展覧会「魯山人の美―日本料理の天才」が開催されました。このヨーロッパ初の大規模な魯山人展開催にあたり、コミッショナーの太田菜穂子氏に、展覧会のビジョンを考える空間コンセプトから、最終的な展示デザインまで携わる貴重な機会をいただきました。

日本特有の連続する“間”で見せる第1の空間
日本特有の連続する“間”で見せる第1の空間
魯山人の名品の数々を展示
魯山人の名品の数々を展示

ご存知の方も多いと思いますが、魯山人は、陶芸家、書家、篆刻家、画家として、多岐に渡った作品が高く評価されている芸術家です。それだけではなく、「器は料理のきものである」という言葉を残した美食家、料理人としても知られ、器やしつらえも含め、現在の日本の料亭文化を作ったとまで言われています。しかし、日本では有名な魯山人も、実はフランスではそれほど知られてはいません。レストランでソースを断り、持参したワサビ醤油で食べたというエピソードを一部の日本通が知る程度です。そんな魯山人をフランス人に知ってもらうため、彼の作品を紹介するとともに、料理を展覧会の重要な軸に据えました。

展覧会は3つの空間で構成されています。私が3つの空間の基本設計をベースとして作り、パリでの実施設計担当者と共同で、最終の実施案に仕上げました。

(1)魯山人の名品を連続して見せる空間
この空間は日本特有の連続する“間”でメリハリをつけて作品を見せるために、長方形の展示空間に対して敢えて斜めの動線を採用しました。フレームが連続することによって日本の柱と梁が続いていく空間を作っています。フレームは展示台と連結しているので、フレームをくぐるにしたがって作品が次々と現れます。

(2)魯山人を現代につなげる曲面の大きな動線空間
第1の空間を引き継いで、魯山人の代表作の一つである、日月椀を中心に、その作品が表現す“時間の変化”を表現したいと考えました。約30メートルのうねるような大きな曲面を作り、その面上に写真家、上田義彦氏が時間の変化を撮影した東尋坊の写真と日月椀を一列に並べました。時間の変化を、視覚と歩く感覚の両方で体感しながら進む空間です。

アールを描く大きな白い壁に、時間の変化を撮影した海の風景と、典雅な日月椀が連なる第2の空間
アールを描く大きな白い壁に、時間の変化を撮影した海の風景と、典雅な日月椀が連なる第2の空間

(3)現代の日本料理の名店とつくる映像体験の空間
最後の空間では、魯山人の美食家・料理人の一面を伝えるために、日本の著名な料亭「菊乃井」、寿司屋「久兵衛」に協力を仰いで映像を作りました。店のテーブルやカウンターを、オーガンジーで作った「光の家」の中で再現し、撮影した卓上の様子を実物大の映像でプロジェクションすることで、あたかもその店にいるような体験型のインスタレーションに仕立てました。

透ける素材のオーガンジーで作った「光の家」
透ける素材のオーガンジーで作った「光の家」

美術館ではもちろん本物の料理は展示できません。そのため第3の空間では高解像度のプロジェクターとそれを見る空間で、料理に相対する空気感までデザインしたいと考えました。照明とプロジェクションの光に浮遊するように透けて光るオーガンジーの空間で、魯山人の料理哲学が彼の手を離れどう進化したのか。映像も光、包む家も光という純度の高い光の空間の中で体験させる試みです。

久兵衛の空間では、正確に再現したカウンターに、お店で使われている魯山人のまな板皿に寿司を盛る様子から木目までをそのままに投影しています。カウンターの前に座って、いわゆる“おまかせ”を体験することができるのです。光の効果もあり、寿司屋のカウンターという背筋が伸びる空間を再現できたと自負しています。

もう一つの菊乃井の空間では、「風花雪月」の言葉に従った4つの膳とそれぞれの季節の風景を組み込んだ映像をテーブルに投影しました。菊乃井も投影の仕組みは久兵衛と同じですが、さらにテーブルを囲む人を覗き見られるように家の屋根を一面取り除いています。料理に向かう人も展示の一部に見立て、「見る/見られる」の関係を持ち込み、より面白く日本料理のある場を感じてもらいたいと考えました。

実際に寿司を握ってもらっているような映像体験のインスタレーション
実際に寿司を握ってもらっているような映像体験のインスタレーション
季節の風景を組み込んだ映像をテーブルに投影
季節の風景を組み込んだ映像をテーブルに投影

設計中には、展示計画のために多くの魯山人作品を実際に目にし、映像の撮影中には日本の料理の美しさに触れ、設営中には、今回作った展示へのフランス人の反応を見て、私自身、そのたびに深く感動していました。
本展覧会は、魯山人の作品はもちろん、それを通じて、日本人が何を美しいと思うか、何に感動するかを伝えるものだったと、展覧会が開かれた今改めて思います。そしてその感性は、海外の人にも国境を越えて伝わるものだということを強く感じました。

魯山人の器を使った料理によるもてなしを映像体験できる第3の空間「光の家」
魯山人の器を使った料理によるもてなしを映像体験できる第3の空間「光の家」
実際に映像インスタレーションを体験するフランスの来場者たち
実際に映像インスタレーションを体験するフランスの来場者たち

photo:成田小夜子(シカク)

「魯山人の美―日本料理の天才」 L’art de Rosanjin ~Un genie de la cuisine japonaise~

http://lart-de-rosanjin.org/