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オランダの歴史を物語るアムステルダム国立美術館

オランダの歴史を物語るアムステルダム国立美術館

10年にわたる大規模改修を経て、オランダのアムステルダム国立美術館が新装オープン

2014/01/22

レポーター:テメル 華代

ネオルネサンスとゴシックを融合させた折衷様式のアムステルダム国立美術館(1885年)/Photo: Rijksmuseum
ネオルネサンスとゴシックを融合させた折衷様式のアムステルダム国立美術館(1885年)/Photo: Rijksmuseum
ステンドグラスから差し込む光が美しい「大広間」/Photo: Jannes Linders. Image courtesy of Rijksmuseum
ステンドグラスから差し込む光が美しい「大広間」/Photo: Jannes Linders. Image courtesy of Rijksmuseum
カイパースにより祭壇のイメージでデザインされた「夜警の間」/Photo: Iwan Baan. Image courtesy of Rijksmuseum
カイパースにより祭壇のイメージでデザインされた「夜警の間」/Photo: Iwan Baan. Image courtesy of Rijksmuseum

アムステルダム国立美術館が10年ぶりに新装オープン

10年にわたる改修工事を終えて、2013年4月14日、オランダのアムステルダム国立美術館がリニューアルオープンしました。レンブラントの《夜警》やフェルメールの《牛乳を注ぐ女》など傑作を擁する美術館の人気は高く、再オープンからわずか4ヶ月半で来館者は100万人にのぼりました。

アムステルダム国立美術館がミュージアム広場に建てられたのは1885年のことです。オランダ人建築家ピエール・カイパースによって、ネオルネッサンス様式の美術館が設計されました。美しいレンガ造りの建物は、同時期に近接して建てられたアムステルダム市立美術館やコンセルトヘボウと共に、近代都市アムステルダムの象徴となりました。

開館から約一世紀を経た2003年、建物の老朽化と、これまでの増改築による館内の迷路化に伴う改修工事が始まりました。工事の主眼は、カイパース建築の復元と建物構造の現代化です。工事にかけられた費用は3億7500万ユーロ(約500億円)と、世紀の大規模改修となりました。

カイパース建築の復元

カイパースは美術館の外観と内観に統一感をもたせるため、インテリア装飾や庭園の全てを自らデザインしました。19世紀のアムステルダム国立美術館は、優美な装飾と色鮮やかな壁画に彩られていたのです。ところが20世紀以降、華美なインテリアが作品鑑賞を妨げるとして、壁は白く塗りつぶされ、装飾も少しずつ取り外されました。モダニズムの潮流の中で、館内はすっかり質素になってしまったのです。

今回の修復工事では、壁や床、天井の装飾が見事に修復・復元されました。「大広間」の象嵌モザイクの床には、豪奢なステンドグラスから柔らかい光が降りそそぎます。17世紀の巨匠による傑作が並ぶ「栄誉の間」も、半世紀ぶりに壮麗な姿を取り戻しました。天井と壁には植物モチーフや幾何学模様の装飾がほどこされ、ルネットには寓意画や芸術都市の紋章が描かれました。

最大の見どころはやはり「夜警の間」です。アムステルダム国立美術館の聖域ともいえるその展示室は、レンブラントの代表作《夜警》を掲げるために、カイパースによってデザインされました。アーチ形の天井を支える柱の上には、「朝」「昼」「夕方」「夜」と、陽光を象徴する四つの女像柱が黄金に輝き、光と影の巨匠と呼ばれたレンブラントの功績を讃えています。

大型の《夜警》は館内移動ができないため周辺道路を通って運搬された/Photo: News Center Philips
大型の《夜警》は館内移動ができないため周辺道路を通って運搬された/Photo: News Center Philips
一階天井の搬入口から「夜警の間」に引き上げられる《夜警》/Photo: News Center Philips
一階天井の搬入口から「夜警の間」に引き上げられる《夜警》/Photo: News Center Philips

市民から提案する街づくり

修復中、期せずして主役となったのは美術館のエントランスです。設置場所をめぐり、建築家とアムステルダム市民が対立して大論争になりました。本館中央を貫く通路上、すなわち公道上にエントランスが建設されることが発表されると、「交通の妨げになる」と市民から反対の声が上がったのです。この道路を通る自転車の数が一日で1万3000台を超えることから、サイクリスト協会も意義を唱えました。幾度にわたる公聴会が開催され、最終的には周辺環境に配慮した市民の代替案が採用されました。

「神が地球を創ったが、オランダはオランダ人が造った」という格言があるように、堤防を建設して国土を拡大してきたオランダ人には、自分たちが国や街を築いてきたという自負があります。公共施設のプランは市民によって徹底的に議論され、コンペの最優秀案が見送られることも稀ではありません。伝統と革新の双方を尊重し、残すべきものと新しく創るものを見極めるのがダッチスタイル。アムステルダム国立美術館には、新旧オランダの心地よい調和と、アムステルダム市民の愛情が感じられます。

中央通路の側面はガラス張りになり四箇所にエントランスが設置された/Photo:Pedro Pegenaute. Image courtesy of Rijksmuseum
中央通路の側面はガラス張りになり四箇所にエントランスが設置された/Photo:Pedro Pegenaute. Image courtesy of Rijksmuseum
自然光が降りそそぐ吹き抜けのアトリウム/Photo: Pedro Pegenaute. Image courtesy of Rijksmuseum
自然光が降りそそぐ吹き抜けのアトリウム/Photo: Pedro Pegenaute. Image courtesy of Rijksmuseum

Profile

テメル 華代

テメル 華代/イラストレーター

1977年山形県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。アムステルダム・ワッカース美術アカデミー卒業。2001年よりオランダに在住し、絵画やイラスト、絵本の制作を行っている。